第5話「連帯保証人について」

「払うのか、払わねえのかはっきりしろ」

電話口から若い男のドスのきいたいきなりの怒号だ。

「あなたは何を言っているの。いきなり何のことだ。人違いじゃないのか」

冷静に対応しているつもりだが、秋山の声は震えていた。

「ふざけるな、てめえは秋山だろう」

と追い打ちをかけてきた。

「そうですが、あなたは」

受話器を持った手が震えてきた。何かの間違いに違いない。

自営でリフォーム業を営んでいる43歳の秋山はまだ、何が何だか分からない。

「バカ野郎、自分で保証人になっていて忘れてんのか。おめえの兄貴の秋山陽介に金を貸している会社だ。思い出したか、とぼけやがって」

はっと気づいた秋山は、

「兄の陽介の借金は終わったと聞いているけど」

「ふざけんな、返してもらっていたら電話するわけないだろう。いつまでもとぼけているとそっちに行くぞ。全額用意しとけ。合計で490万だ。これから行くぞ」

秋山は震えあがってしまって、高校時代の同級生ということもあり、私のところにすぐ電話が来た。

他に3人の連帯保証人をつけている相手は業界でも悪名高き大手のSファンドだ。この方法で急成長してきた。同様の督促を受けたほかの2人も秋山と一緒に私の会社へ来た。3人とも一晩寝ていないのだろう。疲れ切って目は充血している。

3人の状況を聞いてもう1人の保証人である田中に電話を入れさせた。

秋山に代わって私が3人の委任を受けるがあなたはどうするかと訊くと、

「冗談じゃねえよ、俺はこのくらいの脅しで自分が使ってもいねえ金なんか払えるかよ、余計なお世話だ」

とガチャンと電話を切った。早速私は3人の代理でSファンドの担当者に電話をかけた。

「明後日に行くので、それまで督促は止めてくれ。払わないための言い訳に行くんじゃないから。いずれにしても話はつけよう」

私の言葉などから、礼を尽くした方がいいと思ったのか、担当者は明後日まで待つと言った。

私は

「もう1人の田中さんには委任されていないから、そちらの方はお好きなように」

と伝えた。

督促を途中でストップし、欲求不満の取立人たちは田中1人に4人の取立の全力を投入したのだろう。翌日早朝、田中は会社に飛び込んできた。

「どうしたの、昨日の元気は」

「いや、申し訳ない。ものすごい取立てで電話は鳴りっぱなし、夜中に家には来るわ、赤い字で{金返せ、ドロボー}と書いてドアに張っていくし、店も仕事になんねえし、これじゃ死ぬようだよ」

とガックリと肩を落とした。

「田中さん、昨日頼んでくれれば3人と一緒だけど、昨日あれだけのことを言われているんだし、これからSファンドに電話をするんだから、私も恥をかくようなものだからね、手数料は高いよ」

「わかったよ。もう何でもいいから俺のところに連絡しないようにやってくれ」

田中は委任状を書いて出て行った。

4人の委任状と秋山を連れて東京駅近くのSファンドの八重洲店に行くと、10ケ以上ある各テーブルにはすべて男達だけがうつむき加減で疲れ切った債務者達や虚勢と不安と怒りを交えた弁護士と思われる人が座っている。

担当者と交渉を始めた私に乱暴な口は利かないが、かなりのしつこさで全額返済を迫ってきたが、最終的に金利は免除、元金は90万まけさせて4等分で一人100万円で話をつけた。

この交渉は長くなるのでここでは省略するが、一般的にはまず、解決は難しい筈だ。

秋山には重々注意をして別れた。だが、秋山にはまだ難問があった。池袋のIという中堅の悪ドイ街金と銀行の連帯保証人になっているのだ。この続きは別の章で書くつもりだ。

「連帯保証人について」

保証人とは、債務者が約束を不履行した時に債務者に代わって、残っている返済金を元利合計で支払うのだ。

これには、保証人と連帯保証人がある。

保証人は債務者が金を持っているとか、実家が裕福だからそちらへ行ってくれ、と取りあえず言える立場だ。もちろん、最終的には払わざるを得ないが。

連帯保証人とは、そのような言い訳や支払いの優先順位を主張出来ない。いわゆる検索の抗弁、催告の抗弁を持たない。

だから、いきなり来られても払うしかない。

一般的に部屋を借りた賃借契約の場合でも、金銭貸借も全ての契約は連帯保証人と考えたら間違いない。

例えば、Sが連帯保証人になった身内のHが、支払い不能になった。

さっそく貸金業者から取立てが入る。ここで重要なことは、Hは自分の借金だ。ここ何か月も前から支払いが滞り、督促を受けている。

だから、大分前から自分がいつダメになるかを予測している。

苦しいけれども、自分の末路を感じている毎日だ。だが、連帯保証人のSは違う。1年以上前にサイン・押印をした連帯保証人のことなど頭にはない。とっくに返済は終わっている筈だと性善説に考えている場合は多い。

そこへある日突然、督促状か内容証明によるきつい文章が送られてくる。時にはいきなり電話が鳴り、生まれてこのかた1度も言われたことのない乱暴なセリフが聞こえてくる。

「おい、Sか?Hの保証人のSだろう」

「はい、何の話ですか」

「とぼけるな!てめえでなった保証人のことも忘れてんのか」

やっと思い出して、

「保証人って、Hの件だったらもう返済は済んでいるはずですよ」

「ふざけるなよ。終わってないから電話しているんだ。今日で元利合計〇〇〇万円だ。いますぐ払ってもらおうじゃないか。おい!」

「おかしいですよ。その金額では借りた金より多いじゃないですか。もう相当支払っているんじゃないですか」

やっと抗議をするが、いきなりの攻撃に力が入らない。

「おかしかないよ。元金もろくに入っていないんだ。金利は何か月分かは入れていたけど、この3ケ月は金利も入らねえ。今日払わなければ、これから1日ごとに増えるんだ。いいか、ウチの事務所に今すぐ来い。来るのが嫌ならこっちから行くぞ。耳を揃えて金を用意しておけ!」

こんなやり取りが数日続く。督促の電話は1日に何十回も入る。テープに録音したり、警察に相談するが、債権者の請求額に間違いがなければ、民事裁判だ。誰も助けてくれない。最後は家を売ったって払わなくてはならない。だから、保証人にはなるな、と親は必ず言うはずだ。債務者は借りた金を自分のために使う。払えなくなったら自業自得だ。

だが、保証人は借りた金を使ったわけではない。

(半遣いといって、借りた金を半分ずつ使っている共犯者もいるが)

そして、毎日の生活の中で1か月も過ぎたら忘れてしまう。ちゃんと払っているか、などと訊けない。たとえ訊けたとしても、

「もちろん払っているよ。心配性だな」とか、

「私を信用していないの?気が小さいね」等と、逆に厭味を言われたりするのがおちだ。

それなのに、忘れた頃に突然延滞金利をたっぷりつけられて請求される。

連帯保証人になった方は、自分で決めた生活態度と、収入と支出のバランスを考えて生活している筈だ。

だから、自分の現在はもちろん、将来の人生設計まで狂わされる。

債務者は1度位は電話をしてきて、「仕方がなかったんだ、入る金の予定が狂ってしまって」等と謝るというより、愚痴をこぼす奴は良い方だ。大半は音信不通だ。

債権者と話しをつけて、長期間の支払いを続けているのに1年も経って落ち着いてくると、債務者の方は生活保護を受けて隠れて内職をして、パチンコ通いをしていたり、居酒屋で飲んで法螺を吹いている奴だっている。

何であんな奴の保証人になったんだ。親にはバカだと言われるし、妻にはあんたのお人好しには呆れる、と軽蔑されるし、人のためになることをしたはずなのに、いいことなんか何もない。

しかし、近年保証会社という身内や知人の代わりに保証人になってくれる代行会社も現れている。もちろん、多少の保証代は支払う。しかし、これは部屋の入居などの保証であって、銀行借入や友人知人からの借金の保証はしてくれない。

だから、やはり保証人を頼まれるという危険は身近にあるのだから、父も母も口を揃えて言った筈だ。

「人の保証人には絶対なるなよ」

私もそう思う。但し、ここでひとつ自分も覚悟することがある。

保証人にならない、ということは、自分も他人に保証人になってくれ、と頼むことはしないという強い決心をすることだ。

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