第6話「詐欺」

「海老屋」

仮にAと呼ぶ詐欺師がいる。

彼は知人の紹介で新橋の「海老問屋」を知った。

最初Aは早朝、近くまで来たからということで店に寄った。主人が築地の市場に出かけようとしているところで、自分もちょうど築地に仕事があるので乗せて行くと主人を送って行った。

それが再三繰り返されると、主人はAの笑顔と回転の速いなめらかな語り口で会うのも楽しみになったし、車の送り迎えも便利になってしまい、実はAが来るのを心待ちするようにもなってしまった。

そんある日、ちょっと得意先から小切手を預かったので現金化してくれないか、と5万円の小切手(もちろん、Aの仲間との融通手形、又は実体のない買い小切手)を示すと

「いいよ」

と主人が5万円を渡すと、じゃあ、これはお礼にと1万円をバックした。

「そんなつもりじゃないよ」

という主人に、いやどうせ半分は利益だからと言って無理に置いてくる。

もちろん、この小切手は決済される。

似たようなことが数回続いて、主人も車の送り迎えや小切手割引のお礼が楽しみになった頃、纏まった小切手なり手形の割引を依頼する。

その手形を決済するために別の手形を置いていくようになる。

主人へのお礼と本人の使う金と手形の額面はどんどん増えていく。主人の儲けもどんどん大きくなる。

結果、主人は自分の金を利益と思い、もらっているようなものだが、途中からは儲けを失いたくないという欲望と、助けないと今までの金が引っかかるかもという不安で、きっぱりと止めることは出来なくなってしまう。

本当は今までの損はあきらめて、ノーと言うべきなのだが。

そんな状況でAは金を引き出していく。

主人は預金を崩し、挙句は借金までしてAに協力するようになる。

信じられないかもしれないが、こうなってくると自分の会社が不渡りにっては大変と毎日がAと2人で資金繰りをしているような状態になる。

たまたま私はこの主人の手形を金融業として割り引いたことがある。そして手形は不渡りになったので、主人を呼び出して手形を示して返済を迫ると、何かモゾモゾ言いながらポケットに手を入れて、本でも出すかのように厚みのある束をテーブルの上に叩きつけた。

それはすべてAにより掴まされた不渡りの小切手や手形類で、総額は2,000万円以上だった。

幸いこの主人は家を売却して借金を返済し、出直して現在はうまくやっているようだが、自宅はそんなことから失ってしまった。

Aの方はもちろん、次の獲物を求めて銀座界隈をぶらぶらしている。

それに海老屋の主人も時が経ち立ち直りが出来ると、そのAのことを懐かしがっている節がある。

当時自分の店とは目と鼻の先の繁華街なのに、働きづめで自分では足を踏み入れたこともない、銀座の華やかなクラブやレストランに、自分の詐欺された金を使って誘われ、まるで郷里の同級生のように親しく遊ぶことが出来た友達(?)のようなA.

そして遊んでいて気楽に面白おかしく過ごしてくれる、こんな風に時を過ごすことは主人にはなかったのだ。

いつも女房の目を気にして、月に1度か2度せいぜい近所の居酒屋で酔っぱらうこと位だ。

中小企業の経営者、未亡人、お年寄りなどが被害に遭いやすいのは、小金を持っているということが一番の理由だが、次に孤独で相談相手や信頼出来る友人を持っていないということは言える。

もっとも、いい友人がいて忠告しても、引っかかっている最中は聞く耳を持たないのが人の常ではあるのだが。

「日常と詐欺」

毎日、新聞やテレビでニュースをみるのが嫌になるほど緊張感と責任感の欠如から起きる凶悪事件や事故、金銭の絡んだトラブルの多発が目に飛び込んでくる。

外に出れば7人の敵あり、どころではない。家でじっとしていても事件や事故に巻き込まれる時代だ。

ニューヨークの貿易センタービルのテロや英国・フランスの同時多発テロなど、日常頻繁に起きている無差別殺人事件。そのような大きな事件は別としても、自分や、周囲の身近な人に起きる金銭に絡むトラブルはひきも切らない。

お金のトラブルとはどんなものがあるだろう。

  • 金銭貸借(友人・知人・身内との)
  • 相続問題
  • 詐欺にあう

振り込め詐欺、結婚詐欺、リフォーム詐欺、シロアリ駆除詐欺、商品詐欺、各種の投資話(M資金をはじめ、アフリカの金鉱脈投資、海老の養殖など、外国を舞台にしたものが増えている)

過去には高配当を謳って金を集める豊田商事、オレンジ共済など、訪問販売、催眠商売などで、安物商品や粗悪な羽毛布団などを高額で買わせる。

繁華街の路上で、若者たちをターゲットに絵画や毛皮、宝石・時計等を商品価値の100倍もの金額で売りつける。金を持たない者にはクレジットを組ませたり、サラ金から借りさせたりする。

インターネット等で200万円を融資するので、1割の20万円を保証金の名目で先払いと言って金を振り込ませる。月末には喉から手が出るほど金が欲しい中小零細企業主が、こんな信じられない単純な方法によく引っかかる。

詐欺ではないが、金融機関や保険会社・大手不動産の投資話など、書面やチラシに重要な部分を眼鏡をかけても見えないような小さな文字でびっしり書かれている会社は気を付けた方がいい。

詐欺は書き始めたらキリがない。要は自分にだけいい話やいろいろ理由をつけて、先にお金を払わされること。個人の大切なカード番号などを教えなければならないこと。あなたにだけ儲けてほしい等というのは、すべて詐欺だと思って間違いない。

会社の共同経営によるトラブル

儲かった時だけを考えているので、損が出た時に夫々がどういう責任をとるかを決めていないので、責任の擦り合い、または途中で逃げ出す敵前逃亡型とさまざま。

脅迫・恐喝に遭う

自分の弱みや女性問題などをネタに金を脅し取ろうとする。時には何の罪もないものにまで事件をでっち上げて金を脅し取ろうとする。

泥棒・強盗・万引き・ひったくりに遭うとき

日常生活の中では危険がいっぱいだ。

だが、今まで書いたものは人に説明した時に白黒がはっきりする金銭のトラブルだが、分かりづらい金銭問題も多い。例えば、女性が愛情のあるそぶりをして、甘い男達にプレゼントや金を貢がせたりしたらどうだろう。

愛情があるふりをしたら、それは詐欺の一種と思うが、警察に訴えても立証できないし、「あの時は好きだったの」等と涙交じりで言われたら、甘い男は「ゴメンネ」等と謝ってもう一度引っかかるものだ。

逆に男が女をだました場合でも、女性が一生懸命貯めた金をすべて貢いだとしても、サラ金や知人から借りた金までつぎ込んだとしても、刑事事件に待ちこむのは難しい。

仕事で金が必要だ。あと100万円あれば今の取引がうまくいく、等と、嘘八百を並べたとしても、詐欺だと言って訴えようとしても、相手が仕事の目算が狂ったと言えばそれでパアだし、仕事なんか何もしていなかったということを立証しても、詐欺にはなりづらい。

男が返済するつもりだった、と言えば支払う意志があったということで一件落着だ。まして1万円でも返済していたら、返済実績ありで全く事件にはならない。

「私は納得いかない」と、自分の甘さを忘れて訴えでも起こしたら(訴えを起こすことは出来る)金と時間をかけて、裁判所での自分の無力さと、自分が考えている正義が現実にはないことに気づく。

金を失い、恥をかき、その後は「私は男を信用しないことにしている」とか、「女は皆同じだよ。計算高いんだから。俺は信用していない」
等と言うことになる。

世の中には素晴らしい人間がいることを忘れて、自分の貧しい人生観で益々自分を追い込んでいったりするものだ。

だから、くれぐれも人を見る目を養い、いい大人と付き合い、出会うために質の高い本を読み、愛と勇気をテーマにした人間の演じる映画を観ることだ。

自分の甘さとやさしさの区別、いじわると厳しさの区別をして、「良薬は口に苦し」と思い、いい大人の意見を謙虚に聞くことだ。

「詐欺師と結果詐欺師」

詐欺師には、元々詐欺を働くために生きている詐欺師と、詐欺を働こうと思っていたわけではないが、結果として詐欺師になってしまう結果詐欺師がいる。

どのような違いがあるのか少し話を進める。

目の前に詐欺に巻き込まれている人がいるとする。「相手は詐欺師ですよ」と忠告してもほとんどの人が言うことを聞かない。

どうしてか。

それは人のプライドと欲と自信とは厄介なものだからだ。

「あの人が私を騙すわけはない。私は私利私欲なく彼に接しているのだから、彼が私を見る目は他の人とは違う筈だ。私だから、こういういい話を持ってきてくれているのだ」

という風に自分に都合のいい解釈をし、詐欺をさせやすくしているケースがほとんどだ。そういう時の被害者は人が好いのではなく、自信過剰になっていることに気が付いていない。

自分に私利私欲があることも、そんなうまい話を多くの人がいる中で、なぜ特別の能力を持っているわけでもない自分に来るのか、という疑問を持たない。そして自信過剰と同時に楽をするという考えが強い。

「私に預けるだけでこんなに利益が出ます。年何10%の配当です。相続した時に税金が安くなる」等、ほとんど被害者は体を動かさないし、頭も使わない。動くことといえばなけなしの金を郵便局や銀行から詐欺師の懐に動かすだけだ。

しかし、引っかかる者には、自分を騙すはずはない、という自信と、自分が知恵も体も使わず楽に利益を得るという欲があることは確かだ。

詐欺師はそこを狙う。詐欺は詐欺師だけでは成立しない。

被害者が協力していることを忘れてはならない。

また、詐欺の中には最初から狙っていく詐欺と、結果が詐欺になるという、詐欺をした

本人も最初はうまくやって金を返せると思っているようなものと2つある。

この2つが最初に言った詐欺師と結果詐欺師だ。

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