第18話「自殺ファイル パートⅡ」

1998年2月国立インター近くのビジネスホテルで3人の中小企業経営者が同日、同時刻に首つり自殺をした。

この記事を見て私は驚いた。手形を保証し合っていたので、1人が不渡りを出せば他の2人にも及ぶ。

分かりやすく言えば3倍以上の借金を背負うことになる。

それにしても、一部屋に集まりビールを飲んでそれぞれが自分の部屋に戻り、約束した時刻に首を吊る。

大の大人がそんな約束を果たせるものなのか。1人位は自己破産をするから俺は死なないという者がいてもいいような気がする。

最も、破産だけでは借金は払わなくて済むが、家族には何も残せない。それぞれの家族は路頭に迷うことになる。

3人が生命保険に入っていたかどうかは記事を読んだ限りでは分からないが、入っていたような気がする。

それを考慮しても、不思議というか理解しがたい3人の行動だ。金が絡むと想像も出来ないことが起きるものだ。

S環境開発という大手不動産会社があった。

ホテル経営・不動産開発・リゾート施設の経営と手広くビジネスを展開していた。

この会社で常務までになった50代そこそこの男がいた。

仮にNとしておこう。Nはやり手で、銀座・赤坂で接待費をバンバン使いまくっていたが、会社は儲けさせていた。

1度Nのトラブルの相談を受けて解決してやったことがあった。私の関係していない不動産売買に私の会社を仲介の中に入れてその手数料で報酬をもらったことがある。

そんな荒っぽい商売の仕方だからN も問題を抱えやすく、どうも会社の金を使い込んでいたようだ。それが発覚しそうになった矢先にNは自殺した。

その日はNの娘の成人式で、家族で娘の成人を祝ってから、

「ちょっと散歩に出てくる」

と家を出て近くの公園で首を吊った。遺書は会社・奥さん・娘に残されていたという。

あれだけしたたかで荒っぽいビジネスをしていても、自分を守るということになると決して強くない。

真面目でおとなしい人が死ぬわけではない。悪党も不道徳な奴らも自殺はするものだ。

私の友人で一緒に「金と共に去りぬ」という本を共著したペンネーム大和尚生という男がいる。

この本は多重債務問題・自己破産・自殺等を取り上げていた。その中で当時年間自殺者3万人という話をしていた時、大和が、

「そんなに自殺者がいるんですか。ほとんど金がらみでしょう。死ぬ気になれば何でも

出来そうですけど、何故自殺するんでしょうね」

と不思議がって私に色々聞いてきた。

「大和君、だからお金は怖いんだよ。誰だって借金なんかで死にたくないね。

でも、年間3万人、1か月に2,500人,1日80人以上が自殺している。行方不明者も年間10万人位いるから自殺者はもっと多いかも知れないね。

こうやって大和君と話をしている1時間のうちに自分で命を絶っている人が3人以上いるってことだよ」

大和は私の言葉を信じられないという表情で聞いていた。その大和が15年後に自殺をした。

彼は自分とパートさんとで零細企業をやっていたが、金に行き詰まり自殺した。その2,3か月前電話があり、

「相談したいことがあるのですが、1度会社に伺っていいですか」
「もちろん。久しぶりだし楽しみにしているよ。いつでも来てください」

そう答えた私は、まさか大和がそんな大きな悩みを抱えているとは考えもしなかった。

確かに金銭的には厳しい状況だとうすうす感じてはいたが、死を選択するとは思わなかった。

自殺の人数を聞いて不思議がっていた大和がやはり首を吊った。大和の義父は中小企業の経営をしている。正月等酒が入ると必ずいう事は、

「君は大学出だろう。俺は中学しか出ていないが立派にこうして経営者をしている。大学で何を勉強してきたんだ」

これを言われるのが嫌なんです、と何度も言っていた。

大和が頼めば娘と孫2人が可愛いし、義父は何千万円かの借金は助けてくれたかも知れない。

または大和を自己破産させて、自分の会社に勤めさせて家族を養えるようにしてくれたかもしれないが、それでは一生義父に頭が上がらない。

毎日毎日

「大学出ても駄目だな。俺なんか中学卒だぞ」

という声が聞こえてきたのかも知れない。

普段からかなりプライドの高かった大和はそんな人生は選べないと考えたのか。だが、子供2人を愛していたことは確かだ。

自分が死んでも義父は娘と孫は面倒見てくれるからと考えたのか、いずれにしても今となっては分からない。

そう思い、私の冗談にまたそんなことを言って、と笑っていた明るい顔。そして本作りの時に見せた少年のような純な大和の表情を思い出していた。

それからもう1人、20代から男性モデルとして活躍していたSという1m82㎝でかなりのイケメンの男がいた。

体もトレーニングで鍛えて屈強だった。Sとは気が合って私のことを兄のように慕ってくれた。

クラブでは2人でデュエットをしたりと、夜の街でも時々楽しい時間を過ごした仲だった。

Sは有名ニュースキャスターの女性と結婚し、娘を1人もうけた。幸せそうに見えたが、稼ぎが違いすぎたのか数年して離婚した。

六本木で偶然出会って食事をご馳走して励ましたことがある。それから20年余りが経った。

Sとよく出会った青山のジャズクラブのママから電話があった。

このママもバブル崩壊後店をつぶして行方不明状態だったが、現在は生活保護で生活をしている。20年前はSとママは恋仲だった時期があった。

「室井さん、Sが死んだのよ」

「えっ、だってまだ若いでしょう」

「うん、58歳だけど自殺なのよ。自殺する前日私に会いに来たの。10年以上会っていなかったけど、川口駅で待ち合わせして立ち話して、じゃあ、元気でと言ってすぐ帰ったの。

元気そうだったんだけど、夜に電話が入ったので、どうしたのよと聞いたけど、いや、声を聞きたくなってと言って取りとめもない会話をして電話を切ったの。

そうしたら翌朝警察から電話があって、携帯送信履歴の最後の名前が貴女だったので連絡をしたとのことだったの」

遊歩道で首を吊ったとのことだった。ママに電話をしてきた刑事は、「かなりいい男前だったよな」と言っていたという。

刑事は20代のSがミスユニバース日本大会で美女のエスコートをしたり、時々三大新聞の広告に素敵な笑顔を見せていたSとはもちろん知るわけがないが、やはりイケメンの面影は残っていたのだろう。

Sの元妻は再婚したが、又離婚して現在もBS放送のレギュラー番組でキャスターをしている。

私も内容によっては時々番組を見ることがある。明るく輝いて画面に出ている元妻を見ると、最後にSは元妻に連絡したのだろうか。

娘の声を聞いたのだろうか。だが、最後の電話がママであるということは、Sは元妻と娘には連絡をしなかったような気がする。

Sも相当プライドの高い男だ。一文無しになってしまい今更死にたい等と今も輝いている元妻に愚痴をこぼすことは出来なかったのだろう。

ある日Sが自分が読もうと思って買ったのですが、この本は室井さんの方が僕より合うと思いますので、と言って「統帥綱領」という、旧日本軍が教科書のようにして使用していた本をプレゼントしてくれた。

この本を見るたびにあの長身で私の息子を肩車してくれた屈強な男が、あのような死を迎える事を誰が予想しただろう。

30年程前Sと一緒に過ごした青山・六本木の夜の街と出会った人たちの顔をを思い出す。

金に絡むもの

前項で自殺者が36,000人と書いた。

そのうち中小企業経営者は4,000人以上だ。365日で割ると、経営者が自殺するのは1日当たり10人以上だ。こうして本を読んでいる1時間か2時間の間に1人首を吊るか、電車に飛び込んでいたりすることになる。

一般自殺者で考えると、1日100人以上だ。15分に1人以上自殺していることになるのだ。

自分の命を絶つ位なら、何とかならなかったかと考えるのが普通だ。そこまで思いつめるならば、「もっと早く見栄を張らずに言えば良かったのに」とか、「死ぬ気になれば」とか周りは言う。

だが、話はそう単純ではない。死ぬことは白黒をつけるという意味では単純なことだが、死に至るまでの金との付き合いは複雑だ。

石原慎太郎が鳴り物入りで作らせた東京都の新銀行東京の1,000億余りの赤字、それに400億の追加融資。

中小企業経営者救済のための信用貸中心の金融業である新銀行東京のことでは、スタートした時からこの銀行は立ち行かないと私は周囲には話していた。

この銀行は融資するための金は準備したが金には複雑な心が絡み合っているということを、関係者たちは全く知らなかったのだと思う。

「信用貸しとは」

信用貸しとは、返してくれるという性善説と、返さなければ地獄まで追っていくという性悪説ともいうべき2つで出来上がっている。

「借りる時の恵比須顔、返す時の閻魔顔」という言葉が昔からある。信用貸しとは笑顔で貸して、嫌がらせで回収するというのは、街の金貸しも大手金融機関も全く変わらない不変のビジネスだ。

貸す方も借りる方もこれを承知の上で、債権者・債務者という役につくしかない。

だが、経営者がもう先の見通しがつかない、このままいったら倒産すると分かった段階でも、会社を整理することが出来ない理由はいくつもあるだろう。

① 辞めた後は何をして生活をするか。
② 今まで自分がつぎ込んだ金と、長い間やってきた労力と信用はどうするか。
③ 今閉めれば借金が残る。
④ 家族や従業員に迷惑をかけるし、またみっともなくて伝えることが出来ない。
⑤ 身内や友人知人からも借金している、何といえばいいのか。
⑥ 一番まずい理由は、もう少し頑張ればモノになる等、無理やり自分の考えを納得させることである。

このような理由で先延ばししていって、その先に何があるか。結局周囲にもっと多くの被害者を作り、最後は悪徳金融からも借入れをし、妻のへそくりはもちろん、時には息子・娘まで連帯保証人にしてから倒産する。

これでは今まで辛い時も協力して励ましてきた家族は堪ったものではない。最後は居直って「俺が作った会社だ。俺が潰して何が悪い」と喚く奴もいる。

今まで協力をしてくれた人達に見栄を張るならば、最後まで見栄を張って早く幕を引いて、皆に掛ける迷惑を最小にする努力をすることだ。

しかし、そういう覚悟と責任を持つ人間は稀である。

何故なのか。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする