「第4話」こんなこともあるんだと思った話

私は知人のリサイクルショップで働いていた25歳の女性果奈に母親のことで相談を受けていた。

母親の好子は多重債務者となり、自己破産の準備をしていた。

10年ほど前に無理をして買った埼玉のマンションは競売にかかっていて、今月中に果奈と23歳の弟英二達はマンションを出なければならない。

母親は自己破産し、住まいもなくなる。これから地獄の日々が待っているのだ。その矢先、親戚の叔父から手紙が届いた。叔父は15年以上前に離婚した父の弟だ。

その手紙の内容は父が亡くなり、相続の問題がある。私たちは父の介護の面倒を見て葬式まで出したので、すべて任せてもらいたい。

もちろん、必要な相続分は渡すということだった。

果奈さんから

「15年以上あっていない父ですし、突然のことでどうしていいか分からないし、叔父夫婦は父の預金通帳や実印などは最後まで看病したのだからと言って渡してくれないんです」

とのことだった。

叔父は亡くなる前に子供に会いたいと哀願する兄に、探しているが居所が分からないと嘘を言い、母の好子には相続権はないので、若い二人の子供なら丸め込めると思ったのだろう。

叔父は友人に「そんな財産をとったら横領や詐欺になるぞ」と注意されて方針を変え、果奈達二人をごまかし自分達の思うように財産を管理することを考えた。

相談を受け、叔父の計画を見抜いた私は叔父夫婦に会い、刑事告訴をちらつかせながら話をつけた。

叔父夫婦がすでに使ってしまった300万円は看病をしてくれた礼として認め、葬式代は実費を支払うということにして、銀行通帳・権利書・実印等すべては果奈と英二に戻させた。

土地家屋の評価と何通かの通帳の合計は約8,000万位になったが、二人で分けたのでは相続税もかかるので、果奈の人生設計は成り立たない。

そこで、英二にはサラ金への借金が何百万円かあって連日督促に追われていたので、その全額返済と現金500万円を即渡すということで話をつけた。

不動産の売却が済み、銀行口座から金を引き出し相続税を支払い、川崎にマンションを買って、現金が2,000万程残った。

つい2か月前まで母親は自己破産をし、マンションは競売でなくなり、路頭に迷う筈だった親子が今度は無借金で20坪のマンションを手に入れ、現金が2,000万残っているのだ。

こんな話は宝くじに当たるほどに確率は低い。だが、真実の話だ。全てが終わった時、好子と果奈親子は私を赤坂のレストランに招待してくれた。二人は、

「本当にありがとうございました。父のことも夢のようですが、その時に母の競売のことで相談をしていた室井さんと会っていたのが運がよかったです。この御恩は一生忘れません」

私の仕事でこのようなハッピーな結末はめったにない。私もおいしく料理を頂いたが、大半の人にこんなことは起きない。

しかし、ここに兄の臨終間際に「子供に会いたい」という儚い望みを金のためにごまかす弟夫婦、突然幸運が舞い込んだ姉の果奈は自分の人生だけを考えて弟に渡すお金を弟の多重債務に付け込んで大幅に減らすことを考えた。

私は依頼者のために行動することがビジネスだから、果奈が満足いくように動いた。

私も自分の利益を得るためには依頼者のために弟の権利を抑え込んだ。弟がもう少しお金の世界を勉強し、自分に厳しく生きていたら私の思い通りにはいかなかったかもしれない。

もちろん、私はそれ以上の力を発揮して目的を達成するはずだが。

これで分かる通り、家族や姉弟といえども、普通の人々がお金が絡むとこのように変わるのだ。

「金銭貸借の信用貸し」

金銭のトラブルについて書こうとして、最初に私の頭に浮かんだものは、石原慎太郎都知事が鳴り物入りで始めた金融機関「新銀行東京」だ。

石原都知事のディーゼル車の都内乗り入れ禁止などは評価している。だが、「新銀行東京」の話を聞いた時、これは失敗の確立100%だとすぐに思った。

何故なら、主旨が「中小企業を応援するための信用を担保としたスピード融資」ということだったからだ。

都民の血の滲むような1,000億円の税金を使うということだった。

都知事も経営者陣も、中小企業というものや、そこに従事する労働人口の80%を占める人たちのことを本当に知っていたのだろうか。

1,000億の金を使うのなら相当な覚悟が必要だ。

担保のある企業への条件は時間をかけて、決算書とじっさいの運営に嘘がないか、現在の状況から将来の成長性など。

そして、最も大切な債務者となる経営者の人物と考え方、責任感、謙虚さ、約束を守る、という極めて基本的な部分で調査をし、コミュニケーションをとることだ。

しかし、それは富士山登山でいえばあくまで三合目あたりで、その先は会社を訪問して行動してみなくてはならない。それをやって、やっと五合目だろう。

あとは、融資実行をした翌日からの返済状況から判断し、一日も油断せず、債務者と一緒に成功への道を歩むことだ。

それをしても不良債権は出てしまう。延滞が出たら二か月も待ってはいけない。一か月延期で即、債権回収に動き、正常債権に戻す。

一か月で正常に戻ればもう少しは見守ることも必要だが、一か月の延滞が正常返済に戻せないで、二か月目に突入した債権者を放っておいてはいけない。

しつこさといやがらせを含めた強硬な督促で全額回収に臨まなければならない。督促を厳しくすることが融資を健全化させるし、債務者の金に対するモラルも分かるのだから。

分割分の返済ができない会社に全額を一括で返済しろと迫る。こんな難しいことはない。

だが、それを強い意志でやり抜く姿勢を、経営陣のトップが持っていなければ、信じて金を貸すことが出来る奴は世界中を探してもいない。

その難しい仕事を東京都はスタートさせたということだ。2004年にスタートした新銀行東京は思うようい成績は上がらず、融資した企業はあっという間に不良債権化した。

その時点で私の言っている債権回収方法をとり、新規の融資の審査を厳しくしなければならないというのに、経営者がエエ格好をして声高に宣伝したセリフは、

「第三者の保証不要債務超過でも、連結決算赤字でもOK,三日で回答。スピード融資」

という凄まじいものだった。こういう経営者に渥美清のフーテンの寅さんならこう言っただろう。

「そういう金の貸し方をやりたいなら自分の金でやれ。バカ野郎、もってけドロボー」

と。現時点で1,000億の赤字、400億の追加融資だ。先は見えている。

平成21年2月になって、元の経営者達に都は損害賠償請求をしたようだ。正しい選択だが、請求する相手は他にもいるのではと思ってしまう。

「友人知人との貸借」

前置きが長くなったが、無担保の金銭貸借とはそれほどに難しいものだ。40年間金融の世界で、金と人間のドロドロとした争いを見てきた私でも、

「良いお客と悪いお客の違いが、室井さんなら分るでしょう」

と訊かれた時、こう答えることにしている。

「貸した金をかえしてくれた人は良いお客で、返さない奴は悪いお客」

さて、友人、知人間の金銭貸借とは、まず、100%無担保の貸付となる。金額や状況によっては借用書も取らないで口約束という人も多いはずだ。

友人に頼まれて金を貸したとする。

自分も余裕がなかったが、困っているようなので、来月には返してほしいと言って貸した。もちろん口約束だ。

「大丈夫、大丈夫。来月と言わず、今月でも出来たら持ってくる」

と言った。

二か月が過ぎても金は返済されない。この二か月間に何度も会っている。時には居酒屋で割り勘で飲んだ日もある。

友人は金の話には全然触れない。忘れているのかと思い心配になったが、まさかと思うので、「あのお金返してよ」と言いたいのを我慢している。三か月が過ぎた。

ついに我慢が出来なくなって遠慮がちに、あのお金をそろそろ返してほしいと言い出す。

「えっ、ああ、あの金」

友人は全く頭になかったようだ。

「今苦しいから近い内に返すよ」

面倒くさそうに答える。

そんなことが二度ほどあって、やっと強く返済を迫る。

「俺にも必要な金だし、もう何か月も過ぎているんだから頼むよ」

なにが頼むだ。頼むのは友人の筈なのに。

「お前もうるさいよな。あれば返すよ。ちょっと待ってよ」

友達なのにシツコイ奴だと驚いたような表情で答える。何だ。これは。うるさい、金に細かいとは何事だ。

しかし、個人間の金は貸した方が弱いものだ。それ以上言えないでモジモジしていると、

「ところで、あの借りた金と一緒に今月末には全額返済するから、今日少し貸してくれないかな」

何と図々しい奴と思うだろうが、友人知人、兄弟などから金を借りる人の神経はそんなものだ。

だから、友人や身内の金の無心には充分気をつけるべきだ。

あまりしつこく借りにくる奴には、戻ってこなくてもいいという覚悟で、借金申し込む額の十分の一以下の金額を貸すことだ。

友人や身内から金を借りて、いつまでもとぼけているタイプの奴は、サラ金や商工ローン、キャッシングカード等、借りられるだけ借りているものだ。

「街の金融からは借りたくないので、君に頼む」等とかわいいことを言ったら、要注意だ。信用するな。

そして、貸した金は長い目でやさしく待っている人のところには戻って来ない。
借りた金はうるさいところから返していくのだ。高い金利をとって、きつい督促をするところに戻る。

無利息で貸してやり、その時食事をご馳走したり、お茶代を払って励ましてきたような親切な人のところへはめったに戻って来ないのだ。

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